岡島達雄
40年以上前、職場の夏期研修旅行で山陰に出かけた。予約していた民宿を基地に、浜遊びをしながらあちこち彷徨した。砂丘にらくだが一頭と椰子が二、三本それに鳥取大学の幟が立っていた。砂漠緑化の研究だという。
3日後出雲大社を参拝しようと西に向かった。日御碕で日本海を望み帰路についた。窓を全開してハンドルを握った。高速道路もエアコンもない時代である。島根の県境を越えるころ眠気に襲われながらも里山に入った。スピードも出ていたかもしれない。突然ヘルメットをつけた二人の警官が視界に入った。ブレーキを踏んだが遅い。警棒がおろされ、私たちの5台の車は次々とわき道に誘導されていった。着いたところは広場。警官のほかにエプロンの女性、作業着の男性。なにやら楽しそうな話声が聞こえてくる。トラックの荷台にブルーシート、そこに水が張られ、たくさんのスイカと氷が浮かんでいる。
聞いてみると「夏の交通安全キャンペーンで県外のお客さんに特産品を振舞っている」という。同じようなスピードで走っているのになぜわれわれの車だけが止められたのか、やっと理由がわかった。このときの冷たいスイカの美味かったこと。
やらなくてもよいのに、やっていただいたうれしい交通規制。決して忘れない。やってもらいたくはないが、やっていただかなくてはならない、哀しい家畜伝染病拡大予防消毒交通規制。記憶から消えてほしい。